北緯約60度に位置する小さな島を借りた二人。電気もガスも水道もなく真夏以外は島は岩島かと思えるほど草木がなく、枯れ果てて見える、陸へ帰るための、命綱のようなボートをつなぐ桟橋もない、嵐が来れば島の上を波が声、トーヴェと親友トゥーリッキの質素な夏の家も波しぶきに洗われる。不便で危険なこの島でトーヴェは数々の作品を生んだ。8月頃島を去るときにトーヴェは遭難者のために、メモを置いていく。「このシーツを外さないでください。秋の鳥たちが、家を突き抜けてしまいます。」「何でもお使い下さい。ただし、まきは補充しておいてただけるとありがたいです。」「道具類は工作台の下にあります。よろしく。」そして玄関のドアに鍵をかけて、鍵をわきの柱にさげておく。トーヴェの人や生き物への想いが深い一面がみえる。
(『ムーミン谷への旅』講談社より抜粋)
孤独は最高の贅沢だ「いまのわたしになにかおすすめできることがあるとしたら、それは住所のない島にすむことです。トロールくらいなら棲んでいてもいい、うんと小さなトロールならばね」(1985年トーヴェ・ヤンソン 『ユリイカ』1998年4月青土社)