同潤会・江古田・木造分譲住宅「佐々木邸」

同潤会が試みた田園都市型戸建住宅

竣工昭和9年
敷地坪数約147坪
延床坪数約31坪
所在地東京練馬区
用途専用住宅 木造平屋建
現状現存

都市における鉄筋コンクリート造のアパートメント建設の事業で有名な同潤会が、一方で一戸建ての木造分譲住宅を手掛けていたことを知る人はそれほど多くはないだろう。
同潤会発足当初、都心部には鉄筋コンクリート造の賃貸アパートメントが、郊外には田園都市をめざして連戸建ての木造の普通住宅が建てられた。
立地が不便など評判は良くはなかったため、立地の良い郊外にある程度の所得のある勤め人向けの低密度庭付き戸建ての木造独立住宅の建設と分譲をはじめた。東京、横浜、川崎の20箇所に1箇所あたり数十戸の塊として、約30坪前後の規模の木造住宅が、昭和3年(1928)から昭和12年(1937)まで総計524戸建てられた。
その一軒が、「佐々木邸」で、昭和9年(1934)に一街区30戸分譲された江古田地区に、ほぼ当時の姿のままに現存する。敷地は建坪の4倍以上(建蔽率25%以下)を標準とし、将来の増改築可能な広い庭と建物周辺に採光や通風を確保できる十分な余裕を持たせている(佐々木邸でも東側に和室3室と便所、流しを増築)。
30戸に対して14種も用意された多様な平面形式により、建物と道路の距離に変化を与え、街区全体の景観が単調になることを防いでいる。
「佐々木邸」の間取りを見ると、玄関ホールの直ぐ脇に洋風の応接室、中廊下が伸び突き当りが茶の間になっている。中廊下の北側には女中室、便所、浴室、台所が配され、南側には広縁を持つ座敷(客間)、茶の間の続き間として縁側をもつ居間がある。いずれも「雨戸」「ガラス戸」「網戸」「障子」と言った四季ある日本の気候・風土に適応し、自然と人とを繋ぐ緩衝空間となっている。
「佐々木邸」は、当時の同潤会が手掛けた木造の戸建て住宅の貴重な遺構であり、同潤会が志向した日本人のための近代住宅への想いを今に伝える貴重な文化資源と言える。

東京都教育委員会 平成21年3月発行『東京近代和風建築総合調査報告書』より
撮影:古川泰造