造園家で造園史家でもあったマギー・K・ジェンクス氏は、乳がんが再発し「余命数ヶ月」と医師に告げられた時、強烈な衝撃を受けたといいます。にもかかわらず、次の患者がいるのでその場に座り続けることが許されませんでした。その時、がん患者のための空間がほしい、あと数ヶ月と告げられても生き続ける術はないかと、担当看護師のローラ・リー(現CEO=最高経営責任者)と必死に探したそうです。
「自分を取り戻せるための空間やサポートを」
マギーは、がんに直面し悩む本人、家族、友人らのための空間と専門家のいる場所を造ろうと、入院していたエジンバラの病院の敷地内にあった小屋を借りて、誰でも気軽に立ち寄れる空間をつくりました。その完成を見ずに1995年に亡くなりましたがその遺志は、夫で建築評論家のリチャード・ジェンクス氏に受け継がれ、1996年に「マギーズキャンサーケアリングセンター」としてオープンしました。徐々に全英の人達の共感を得て、2015年現在英国で15ヵ所のセンターが運営され、7ヶ所で開設に向けての準備が進んでいます。評価は海外にも広がり、2013年、英国外で初めてとなるセンターが香港に開設されました。
がん患者や家族、医療者などがんに関わる人たちが、がんの種類やステージ、治療に関係なく、予約も必要なくいつでも利用することができます。マギーズセンターに訪れるだけで人は癒され、さまざまな専門的な支援が無料で受けられます。がんに悩む人は、そこで不安をやわらげるカウンセリングや栄養、運動の指導が受けられ、仕事や子育て、助成金や医療制度の活用についてなど生活についても相談することができます。のんびりお茶を飲んだり、本を読んだりするなど自分の好きなように過ごしていてもいいのです。マギーは、そこを第二の我が家と考えました。
建築をコーディネートするジェンクス氏は、マギーが残した「建築概要」に従うように建築家に設計を依頼。そこを訪れる人は、自らが尊重されているような気持ちになります。共に悩んだローラ氏は、がん患者や家族、友人らの心を理解し、さまざまなケアを組み立てています。
マギーズセンターのように、がんと向き合い、対話できる場所が、病院の中ではない街の中にあること。それは本当に画期的なことです。「場」の持つ力は、医療分野のみならず建築分野の専門家の共感も得てきました。今、マギーズセンターには、世界中から多くの見学者がやってきています。
うにじっくり考えることができ、病院のように安心でき、家のように帰ってきたいと思える場所。いずれの建物にも大きな窓があり、外の風景がよく見えるようにしていることです。建築とランドスケープが一体的な環境をつくり、患者の不安を軽減するという考え方に基づいています。
建築の広さ
280㎡ 程度
玄関
分かり易く、威圧感を与えず温かみのあるもの。
居間兼図書室
施設全体を見渡せる配置。自然光を多く取り入れる。庭の芝生、木、空を眺められる。
オフィススペース
訪れる人をすぐ迎えられるよう、玄関や居間が見える場所に配置。事務室や受付のようなデザインは避ける。
キッチン
田舎風のキッチンのインテリア。12人が座れる大きなテーブル。セミナー・ディスカッションの場としても使用。だれでもコーヒーや紅茶を自分でいれて飲めるような空間。
講習やミーティング用の大きな部屋
14人がくつろげる広さ。折りたたみ椅子の収納スペース。利用目的に応じて間仕切りが可能。
居間兼カウンセリングルーム
12人までが収容できるあまり大きくない部屋。皆が詰めて座ると、打ち解けた雰囲気が生まれる。要防音対策。
二つの小さな部屋
カウンセリングやセラピー用の小部屋。大きな窓から芝生や木、空が見渡せる。未使用の時は明け放ち、人が自由に出はいり出来る引き戸を設けるとよい。
化粧室
洗面所と鏡を各々備える。プライバシーが守れるようなデザイン。
小さなスペース
横たわって休める静かなスペース。
庭と10台ぐらいの駐車場
庭は建物との連続性があるのが望ましい。腰かける場所があり、キッチンから行きやすい配置に。
その他、雰囲気など
自然光が溢れている。庭や中庭など自然に触れられることが大切。事務所のような雰囲気は極力避ける。自宅のような雰囲気。病院を訪れる時の楽しみになるような場所。人生は楽しいと思えるような場所。