中村好文

住宅建築家と3人の家具職人による住宅家具展。

学生時代から家具デザインは建築家の仕事だと思っていました。建築界にはそういう伝統があるのだと思っていたのです。たとえば、コルビュジエ、ライト、ミースの3巨匠はもちろん、アスプルンド、アールト、ヤコブセン、スカルパ、マンジャロッティ、サーリネン‥‥という具合に名だたる建築家の名前を思い浮かべると、彼らのデザインした名作家具の数々が走馬燈のようにまぶたに浮かびます。ところが、残念ながら日本ではそうした伝統は上手に受け継がれなかったようです。ぼくが師と仰いだ吉村順三先生はたくさん家具をデザインしましたが、あとはその吉村門下の奥村昭雄さんぐらいでしょうか‥‥あ、そうそう、磯崎さんには「モンロー・チェア」という椅子がありましたね。でも、それくらいです。いま、ぼくが思いつくのは。
ぼくはこれまで主に住宅設計の仕事をしてきましたが、その住宅で使う家具も数多くデザインしてきました。住宅を設計することと家具をデザインすることは表裏一体になっていて切り離すことができなかったのです。それに、幸いなことに、ぼくには「家具デザインの右腕」と呼び「家具デザインの相棒」と呼んでいる3人の家具職人がいました。
一昨年(2016年)は、この3人と30年間にわたってコラボレーションしてきた家具を一同に展示してご覧いただく展覧会が神戸の「竹中大工道具館」で開かれました。そして、昨年12月から今年の2月末にかけては、その巡回展としてここ「ギャラリーA4」で、展覧会を開く機会に恵まれました。「巡回展」と書きましたが、せっかくの機会ですから大幅に趣向を変えた展示にしたいと考えました。そして、「竹中大工道具館」ではスペースの関係で展示できなかった、居間のソファや、寝室のベッドや、台所の家具など住宅的な要素の家具も住宅らしく展示し、住まいの気配を感じていただけるようにしました。
住宅建築家が職人たちと協働製作で生み出した住宅家具の数々をじっくりご覧いただけたら幸いです。