任されたらどうにかしたい。
難しければ難しいほど、職人気質がくすぐられるしね。
中村さんの仕事はデザインの狙いは理解できるからやるけど、いつも大変だよ(笑)。中村さんは昔からそうなんだけど、自分のポジションと職人のポジションをわきまえていて、大筋のところで合意すれば「後は任すよ、細かいところは分からないから‥‥」って。で、任されたらどうにかしたいんよ。難しければ難しいほど、職人気質がくすぐられるしね。
でも、螺旋階段の手摺りは最初は苦労したなぁ。CADで実際の寸法を起こして、現場の階段と同じ形を工場の中に作ってそれに合わせて曲げていくんだけど、螺旋階段の場合、その家、その家によって直径が違うのと、蹴上の高さが違うので階段の勾配が違ってきて同じものがないんよね。右回りと左回りがあるし。だからどんな現場にも対応できる螺旋の手摺専用の治具を作ったんだけど、この治具ができたので螺旋階段の手摺りはほぼ完璧にできるようになった。半円形と直線の組み合わせの階段の手摺りなんかよりは螺旋のほうがずっと楽に作れる。
中村さんのデザインは余分な要素を全部そぎおとしていくところが魅力かな。それってなかなか勇気がいるんですよ。ぼくにはそれが出来ない。一緒に仕事を始めたころはぼくの中には葛藤があって「テーブルの甲板なんかでも、こんなに薄くしちゃっていいの?」とか思ったりしてました。で、「こんな薄かったり、細かったりしたら100年持たないんじゃないの?」って言ったら「不格好な家具が100年残ってどうするの?」って中村さんから言われて「あ〜、そうか」「そうだよなぁ〜」って、ぐうの音も出ない(笑)。
やっぱり仕事にしても人にしても上手に出会うってことが一番大事かな。そういう意味で、ぼくは中村さんに出会って本当に運が良かった。出会いのチャンスってみんな平等にあるけど、その出会いを上手に生かせるかどうかが分かれ目だよね。中村さんと出会ったころはぼくのまわりにもいっぱい木工家がいたけど、その中でぼくがたまたま「出会った」わけ。そういえば出会ったころ、よく中村さんに「痒いところに手が届かないなぁ」って言われたな。「痒いのはそこじゃないんだよね」って、よく言われてさ(笑)。でも、そうやって長く付き合ってきたから、今じゃ、中村さんの痒そうなところ、これから痒くなりそうなところまで分かるようになったような気がする(笑)。