奥田忠彦

技の引出しの幅を広げて、
デザイナーの要求にいかようにも応えられるように。

中村さんは職人に「まかせる人」ですよね。「投げる人」って言ってもいいかもしれない(笑)。で、こちらは投げてもらったら「なんとしても形にしてやるぞ」って気持ちになります。新作の家具に取り組むときは、図面やスケッチである程度やりとりしますけど、その家具のデザインの方向性に対して感覚的に共有できたなってところまでいくと「その先は考えてね」「あの感じで頼むね」っとこうなる(笑)。
ぼくが奥田個人の仕事でデザインを考えるときは、同時に作りやすさとか、丈夫さのほうを重んじてその仕口※を考えてしまう傾向がありますね。そうすると枠にはまっちゃうので、どうしても自由な発想というわけにはいかなくなるんです。そういう意味では中村さんは枠にはまっていない人。ぼくは職人なので中村さんがなにをしたいのか、デザインの意図するところを読み解いて形にすることに努める。見た目はシンプルでもその中に仕口や手法が隠れている、その仕口と手法の引出しの幅を広げてデザイナーの要求にいかようにも応えられるようにするのがぼくたちの役目だと思うんです。また、中村さんはぼくがそういう引出しを持つ努力をしてることを知っているので、投げてくれるのかも知れません。本来は図面通りに作れば中村さんの考えていることが形になるはずなんだけど、なかなかそうならない部分もあって、それをなんとかできるのは長く一緒に仕事をしてきたからでしょうね。
ちょっと話が変わりますけど、昨年(2016年)の秋、中村さんに誘われてシェーカーの家具を見学しに紅葉真っ盛りのアメリカに行ったんですよ。レンタカーの旅で横山さん夫妻も一緒でした。中村さんは昨年の竹中大工道具館と今度の展覧会を我々の協働の仕事のひとつの区切り目と考えていたようで「シェーカーの旅を自分たちへの褒美にしよう」って話していました。マサチューセッツ州でシェーカー村を見学したあとは、そのまま北上してヴァーモント州まで行きました。泊めてもらったのは中村さんの知り合いの家ですが、その家はビーバーが川を堰き止めて作ったという大きな湖の畔に建っていたので、日の出前に中村さんと2人でカヌーを漕いでビーバーのダムを見に行きました。あとで中村さんが「あのときカヌーの前と後で呼吸を合わせながらパドルを漕いでいたら、まるで、自分たちの仕事ぶりのようだと思った」と、言っていましたね(談)。

※仕口:ホゾとホゾ穴などの接合部分のこと。