金澤知之

単純作業を突き詰めるのが性にあってるんでしょうね。

中村さんは「自分は好奇心が旺盛で、建築や家具だけでなく、工芸品でも、古道具でもよく見ているので、それが自分の仕事の幅を拡げることになっていると思う」って話してますけど、ぼくはそういうのが苦手でね。あまり目移りしないで、ひとつの技術をとことん突き詰めたいほうなんです。松本民芸に入ったときに新人は椅子の座編みを一年目にやるんですが「これは男のする仕事じゃない」って厭がる人もいたけど、ぼくはこの座編みの仕事がけっこう好きでした。単純作業を突き詰めるのが性にあってるんでしょうね。溶接も単純な作業だけど熔接の痕をどれくらい均一に、そして綺麗にできるか、その技術を高めることに気持を集中させて努力するほうなんです。挽物※1も回る材料に刃物を当てて、いかに削るかってことを突き詰める仕事だもんだから、やはり自分に向いている仕事だと思いますね。
それから段取りよく仕事をするのが好きですね。ほら、ぼくは挽物の仕事と、座編みの仕事と、鉄の熔接の仕事の3つの仕事があるもんだから、夏なんかは午前中の涼しいうちに熔接の仕事をして、午後はろくろを回して挽物をして、座編みの仕事はいつでも始められるしね、途中でやめることもできるから合間、合間にしたり、音が出ない仕事だから夜やったりしてますね。
中村さんの仕事では、やっぱり暖炉やストーヴの新作に取り組んでいるときに合作している手応えを感じますね。「NAYAN」を試作したときは吸い込みが悪くて煙が出てきちゃったりしたし、扉の開け閉めも3回以上は作り変えた。図面に描いてないところは自分で「こうかな?」と解釈したりして、いくつも試作しました。そうそう、ストーヴの扉といえば小屋の展覧会のとき※2作った「HODAK」は、原寸模型がダンボール製だったので扉は開いたけど、鉄で作ってみると鉄板同士がかち合っちゃって開かなくて困った。このときは、中村さんが作業場に来ていて、すぐに「じゃあ、こうしよう」って、まったく別の方法を考えついて解決できた。それが結局、一番シンプルで使いやすい形だったんだよね。
最近、中村さんが、つぎは都会でも使える小振りの炭のストーブが作りたいって言ってるので「重量が軽くなるなら、いくらでもやりますよ」って応えてるんです。こっちもそろそろ腰がつらくなってきてるもんだから‥‥(笑)。

※1 挽物:ろくろを回して木材を丸く削る仕事。この場合の「ろくろ」は木工旋盤を指す。
※2 2013年4月〜6月まで東京・乃木坂の「ギャラリー・間」で開催された「中村好文・小屋においでよ」展のこと。