TSURUMI BRIDGE
鶴見橋 広島県広島市

事業主体広島市
構造設計八千代エンジニアリング
施工三菱重工業、熊谷組他
用途道路橋(歩道付)
構造形式3径間連続非合成鈑桁橋+鋼箱桁
規模長さ96.8m, 幅30.3m(橋詰広場50m×50m)
竣工年 1990年
広島市都市美専門委員会
〔都市景観大賞(1991)/土木学会デザイン賞優秀賞(2001)〕

広島市の中心部を東西に貫く平和大通り。緑豊かで、幅100m、長さ4kmもの堂々たる大通りは線状に連なる公園のようでもあり、平和公園とともに広島市のシンボルである。鶴見橋はその東端、比治山のふもとを流れる京橋川に架かる。さしずめ、平和大通りの東のゲートといったところだ。
そこで橋と平和大通りをスムーズにつなぐべく、大通り側の橋詰に大きな広場を提案した。車道を挟み、半円形を向き合わせた橋詰広場は、大通りで行われるパレードの出発点にふさわしい「たまり空間」とも、東側の比治山芸術公園へのアプローチ空間ともなろう。橋と広場を一体的にデザインすることで、東のゲートに合ったスケール感が得られた。また、水辺におりる階段も設け、大通りと橋、そして川とを積極的につなぐ空間とした。
当時、橋の構造では鋼板など板状の鈑桁が一般的だった。車道と歩道が同じ高さの桁で支えられ、側面から見ると重く、武骨に見える。これに対して鶴見橋では、外側から目立つ歩道部の改良を提案した。車道部では従来通り鈑桁を用いるが、歩道部は小さな箱桁とブラケットを組み合わせて軽やかに張り出す。結果、薄い床版の端部のみが目立ち、高さのある桁は奥まって目立たなくなる。シンプルな側面の水平ラインを引き立てるべく、高欄や照明も、橋との一体感を考えながらデザインした。橋上も、周辺の風景を眺めながらゆったり歩けるよう、さりげないトーンのなかにもおおらかで豊かな表情を求めた。高欄には花崗岩と鋳鉄を中心に用いた、橋詰広場の半円形の縁取りも、植栽枡(プランター)を兼ねた石材のロングベンチとしている。

BAYWALK SHIOIRI
ベイウォーク汐入 神奈川県横須賀市

事業主体建設省
構造設計東京建設コンサルタント
施工住友重機械工業他
用途歩道橋
構造形式単弦フィーレンデール鋼箱桁橋
規模長さX型部62m+59m, 幅5m
竣工年 1995年
国道16号汐入交差点景観検討委員会

横須賀港に近い京浜急行汐入駅周辺は、かつて基地の街として栄えていた。その駅前の汐入交差点に架かるベイウォークは、国道16号線沿いに中心街とつなぐ歩行動線の要だ。国道の南側には再開発の核となる高層の複合文化センターが、北側には大型ショッピングセンターと福祉会館が建てられ、それらの回遊性を高め、海辺にふさわしい魅力的な橋が求められた。
そこで国道両側の建物群を結ぶ「回廊」をイメージし、はしごを倒したような形を単弦(1本)でX型に組む構造形(フィーレンデール構造)を提案した。通路の中央に並んだフレームの高さは3.7m、70cm角の白い柱が歩行のよりどころとなり、沿って歩いたり、間を通り抜けたりと親しみやすい空間が生まれる。X型の平面は動線が短く、さまざまな方向にアクセスしやすい。この橋の長さは60mと長い。国道のカーブ地点で道路幅が広いうえに、複雑に交差しているため、交差点内には脚を立てられないからである。これだけ長いと通常は桁の厚さが2m程になるが、橋上に構造フレームを立てることで桁の厚さを1m程に抑えた。階段の高さもそれだけ低くなり、歩行者には何よりだ。
山側の汐入駅を降りて、海側の福祉会館に渡る障害者を想定してエレベーターも設けた。当時はまだ公共構造物にエレベーターのほとんどない時代である。建築基準法では通り抜け(地上階と橋上で出入口の方向が異なる)タイプが禁止されていたが、動線上、そのタイプを提案した。幸いにも実現でき、その後も建築基準法が改正されてそのスタイルが通用されている。

CHIBA URBAN MONORAIL ELEVATED BRIDGE
千葉都市モノレール橋 千葉県千葉市

事業主体千葉県千葉都市モノレール建設事務所
構造設計日本構造橋梁研究所
施工上部工:三菱重工
下部工:大林組、清水建設
用途鉄道橋
構造形式中路式2ヒンジアーチ橋
規模長さ104m, アーチライズ26.2m
竣工年 1998年

JR千葉駅から南へ延びる駅前プロムナード、そのつきあたりを横断する都市モノレールの高架橋である。
モノレールには2つの方式がある。一方は車両がレールを跨ぐ“ 跨座式”、他方はレールからぶら下がる“ 懸垂式”、千葉モノレールは後者である。プロムナードを行き交う多数の車両の頭上をぶら下がって運行されるため、レールの位置は高い。下の街路からは14m程のクリアランス(空き)をとるよう求められている。
この橋はプロムナードの正面に見え、さらにつきあたりをカーブして市街地へ抜ける地点という、ランドマーク性の高い場所に架かる。こういう場合、桁橋にすると桁の高さが大きいため圧迫感があり、何よりも武骨で無表情になりがちである。ここではプロムナードの通行を誘導するように、“ランドマーク性”だけでなく、“ゲート性”をももつ明快さ、また、圧迫感を和らげる“軽快さ”を求め、街路をアーチで囲む中路アーチ構造を提案した。
モノレール橋は小さな河川上に架けられているが、周囲はビル群で囲まれている。橋の背面となるつきあたりは小公園で、人目も多い。このような場所で求められるのは、建物群にもなじみ、身近に見えるスケール感やディテールだ。橋下を流れる小さな川の両岸に踏ん張る2本のアーチの頭を互いに寄せて全体の量感を和らげる、中間をケーブルで吊り、桁をスレンダーにする、などの工夫を加えた。街路に接する脚下もコンパクトにまとめた。

ODAWARA BLUEWAY BRIDGE
小田原ブルーウェイブリッジ 神奈川県小田原市

事業主体日本道路公団
構造設計日本構造橋梁研究所
照明デザイン中島龍興
施工上部工:住友建設、鹿島建設
下部工:白石、馬淵建設
用途高速道路橋
構造形式3径間連続PCエクストラドーズド箱桁橋
規模長さ270m, 幅9.5m〜16.43m
竣工年 1994年
西湘バイパス橋梁構造物に関する技術検討委員会
〔土木学会田中賞(1994) / FIP Special Mention 賞(1998) /照明学会照明普及賞(1995)〕

低いタワーの上方にケーブルを集める提案が実現し、低く滑らかに連続する形態が得られた。鈍重にならないようにタワーは六角形の断面とし、縦線を強調している

この地にふさわしいコンパクトで魅力的な橋を目指し、日本道路公団(当時)が採用した国内初の構造システムが、エクストラドーズドPC橋だ。斜張橋と桁橋の中間タイプといわれる形式で、斜張橋よりもタワーがずいぶん低く、どちらかといえば桁橋に近い。当初はスイスのアルプス山中にあるガンター橋をお手本にスタートしたのだが、コンクリートでカバーされたケーブルがタワーと一体化した形状はやや、いかつい。アルプスには調和しても小田原の海を背景とするには重いのではという意見もあって、ケーブルを露出させ、軽快さを求めることにしたのだが、これは正解だった。また、頭上の圧迫感をなくすため当初タワー上部にあったつなぎ梁を除くこと、ケーブルの定着部をコンパクトにまとめるため、通常コンクリートに1本ずつ突き刺すように定着するケーブルをサドル形式のように連続させることなど、これらデザイナー側からの提案が技術的に可能となり、ケーブルがなめらかに連続して見える新しい構造形式にふさわしい形となった。
六角形断面で縦線を強調したタワーや、コンクリートの素材感とは対比的にFRP樹脂でカバーされたメタリックなケーブルなどのディテールは、シャープな造形のなかに繊細な表情をつくりだした。また照明を、投物防止柵の上部へライン状に埋め込むことで、構造の形式を活かしながらさわやかな夜景をつくった。
設計段階から施工段階にかけて、発注者・構造設計者・施工者の協議に参加し、構造から高欄などの付属物にいたるまで、デザイン面から検討を加えることができた恵まれたケースだった。今でも新幹線の車窓からこの橋をのぞむたび、当時の出会った人々の熱い空気を思い出す。

HASUNE FOOTBRIDGE
蓮根歩道橋 東京都板橋区

当初反対されていたベンチだが、通行の邪魔になってはいない。人を包み込むような形の高欄、楽しい舗装なども高齢者や子供たちに橋の利用をうながした。

事業主体東京都、首都高速道路公団
構造設計酒井鉄工所
施工酒井鉄工所
用途歩道橋
構造形式鋼箱桁立体ラーメン橋
規模Y型部58m+34.7m+31.95m
幅2.25m〜1.5m
竣工年 1977年
〔土木学会田中賞(1977)〕

高齢者にはスロープが利用しやすいものの、用地のとれない場合が多い。手摺も歩行を助けている。

初めて手掛けた橋が東京板橋の高架道路の下に架かる蓮根歩道橋である。橋にもデザイナーの協力が必要と考えた首都高速道路公団のエンジニアに、縁あって出会ったことがきっかけだ。
デザインにあたっては、通勤や通学、買い物や散歩で使う橋なので、日常生活の視点を大切にした。
単に橋のスタイリングをするだけではない。障害者はもちろん、幼児、妊婦、高齢者を含む皆が気持ちよく利用できるもの。歩きやすく、美しく、途中にはベンチも欲しい。公共空間のインテリアデザインとしてはごく当たり前な発想を、外部にも延長し、設計したのである。奇しくもわが事務所では、大きな病院のインテリアデザインの仕事を終えたばかりであり、そのノウハウが歩道橋デザインの新たな発想のきっかけとなった。
ところが、管理者の都の担当者との打合せの際、まず橋の中央にベンチを置くという提案に驚かれた。誰が利用するのかとの問いに、老人、そして妊婦と答えた途端、どっと男性諸氏から笑いが起きた。老人はまだしも、妊婦とは、男性には思いもよらぬ発想だったのだろう。安心して歩けるように歩道橋の通路の両側に高さ1.2mの高欄を取り付け、さらに歩道橋全体にわたって連続する高さ80cmの手摺を提案したことも物議を醸した。現在では手摺を二段、全面的に設置することが法令で定められているが、当時は階段以外に手摺は不要と判断されたのだ。照明から舗装、色彩までを含むすべての提案が暗礁に乗り上げたものの、設計・施工を担当する公団のエンジニアとともに、ねばり強く都と協議した結果、テストケースとしてベンチの設置を含めて実現できた。

FRANCE BRIDGE
フランス橋 神奈川県横浜市

舗装は磁器タイルを貼り、明るい色のラインで歩行をいざなう。

事業主体横浜市、首都高速道路公団
構造設計首都高速道路公団
施工中村組、宇野重工
用途歩道橋
構造形式5径間連続鋼箱桁ラーメン橋
規模長さ221m、幅4m
竣工年 1984年

ファッションの街・元町のある山手と、食の街・中華街のある関内、個性ある街として親しまれるこの二地区は、堀川を挟んでそれぞれ発展してきた。その堀川の上部に首都高速の高架橋が架かるのに伴い、その下に市場通り橋・代官橋・フランス橋の3橋の歩道橋が新設され、前田橋が架け替えられた。2つの地域を一体化させる歩行ルートをつくる、いわゆるまちづくりの一環としての橋だった。横浜港に面した「港の見える丘公園」と「山下公園」は堀川を挟んで対峙する。片や丘の上、片や海際にあるこの2 つを結ぶ歩行ルートを整えて橋を架けること、これは横浜市の都市デザイン上、重要な課題だった。
当初、河川の上を直線的に渡る案もあったが、高架橋や街路との収まりが悪く、街並みから突出してしまう。そこで大きなカーブを描いて渡る平面形を提案した。丘のふもとのフランス山公園脇から、高架下の堀川にカーブを描いて対岸へ渡り、次に海側に折れ人形の家博物館を経て山下公園へ至る。街並みにもなじみ、回遊性も高まるルートとなる。公園側にくいこんだ曲線部分でアーチ状のメインゲートをつくり、その前面には橋と一体化した魅力的な広場も生まれた。
この仕事は首都高速道路公団の発注であったが、横浜市の側は道路局の他、都市デザイン室、公園担当の緑政局、人形の家担当の経済局と、計15名ほどの大人数で、さまざまな角度から協議が行われ、土木の世界では当時初の設計監理も申し出て、現場で石工さんたちと具体的に協議できたことも全体の質を高めた。その結果、曲線に沿って堀川沿いの風景が刻々と変化し、高架下ではあるが、歩く楽しさに満ちた歩行空間となった。

OHSUGI BRIDGE
大杉橋 東京都江戸川区

橋の上にはバルコニーを設け、石材のスツールを置いた。橋からの眺めも良く、散策を楽しむ人も多い。

事業主体江戸川区
構造設計近代設計
照明デザイン中島龍興
施工上部工:横河ブリッジ
下部工:中里建設
用途道路橋(歩道付)
構造形式2径間連続鋼斜張橋
規模長さ119m 、幅18.9m
アドバイザー篠原修、三木千尋
竣工年 1994年

東京都江戸川区を流れる新中川、その全面的な改修に伴い、11橋が架け替えられることになった。大杉橋はそのひとつである。
整備計画上、橋は上流・中流・下流域の3つに分け、各グループ内でシンボルとなる橋の形式が設定されていた。上、下流域グループはアーチ形式、中流域のシンボルとしての大杉橋には斜張橋形式が求められた。
しかし、いざ、現地へ出掛けてみて驚いた。周辺に高さ60mもの送電塔が数基も連なっている。果たしてこの風景のなかで、斜張橋の特徴であるタワーがシンボルになりうるだろうか。一抹の不安がよぎった。そこで、送電塔付きの地形模型をつくって、さまざまなタイプを検討していった。その結果、逆に斜張橋のタワーの高さを低く抑え、左右対称のシンプルな三角形でまとめることで差別化を図ることにした。道路を挟んで両側にあったタワーは、江戸川区のアドバイザーの篠原修氏、三木千壽氏のアドバイスを受けて1本に単純化することで、逆三角形の塔頂にケーブルを集めた明快な形が得られた。だがこの橋は2 車線の道路橋で、車道の中央にその1本タワーのスペースがとれない。そこで片側の歩道を広げた上にタワーを立て、偏心させている。タワー周辺には角度のゆるやかな大きな三角形のバルコニーを張り出し、スツールを置いた。散歩の途中に気軽に立ち寄れるスペースをしつらえている。
完成後、地元主催の開通式に招かれた。左岸では開通式、右岸の小学校ではパーティ、と会場が分かれ、大勢の住民が参加する和やかなものであった。橋は単に道路としての役割だけでなく、両岸のコミュニティを結んでいることを実感したものである。

HAMAMIRAI WALK
はまみらいウォーク 神奈川県横浜市

事業主体横浜市
構造設計大日本コンサルタント
照明デザイン中島龍興照明デザイン研究所
施工横河ブリッジ、坪井工業
用途歩道橋
構造形式2径間連続鋼箱桁ラーメン橋
規模長さ96m、幅12.8m
竣工年 2009年

山側は、シェルターの天井を一直線に貫く蛍光灯で明るさを確保、夜景の楽しめる海側は高欄に細い蛍光灯を組み込み明るさも抑えた。

シェルターの曲線フレームによって包まれる山側は、動く歩道が設置可能。
歩行者はシェルターを支えるV脚によってリズミカルに誘導される。

横浜港に接して建設された「みなとみらい21 地区」、通称MM21へのゲートウェイになる歩道橋である。横浜駅東口から駅前のビル群を通り抜け、帷子川を越える部分に架かるが、正面には新築された日産本社ビルがそびえ立つ。このようにビルの屹立する狭間に架かるものの、そこは川の上、海の方へ向かって開けた、その開放感を満喫できる場所である。
橋全体のフォルムは、両岸の硬いイメージのビル群をやわらかにつなぐ扁平なチューブ状。水面を軽やかに渡る。海風や日差しをやわらげるために、橋上を曲面ガラスのシェルターで覆っているが、海側は開いて海への眺望を確保した。
橋の長さは約100m、幅10.4m の歩道の中間にはシェルターを支えるV 型をした支柱を設け、山側は「動く歩道」が設置できるようなスペースをとっている。
白を基調として統一感をもたせるという、この地区の近未来型の都市づくり、この地区を訪れる多くの人々が、この海辺の新しい街への期待感を抱く、そのような歩行空間づくりを試みた。とはいえ、正面の日産本社ビルのデザインについては、谷口吉生氏設計という、設計者名以外の情報がまったく得られず、どうなることかと心配したが、できあがってみると両者が風景として違和感なくつながり、ほっとしている。この歩道橋は横浜市のコンペに大日本コンサルタントと協力して応募し、実現したものだ。照明計画は中島龍興氏の協力を得て、夜間の表情が豊かになった。

PHOTO: FUJITSUKA Mitsumasa