INTERIOR DESIGN
原点としてのインテリアデザイン

スイスに滞在中、スキーで怪我をして入院する羽目になった。ところがそこの病院の美しさや快適さに心を奪われ、デザインに興味をもった。帰国後、幸いなことに、老人病院や精神病院のインテリアデザインの仕事が舞い込んできた。精神病院の建て替えに取り組んだのもひとつ。初めて訪れた時には、格子のはめ込まれた窓や、殺風景な病棟に身につまされる思いをしたのを憶えている。
精神科の治療は患者の社会復帰を目標にしているが、薬物療法とともに日常生活そのものが療法のひとつとして重視されている。そこで患者が日中過ごすデイルームに重点をおいて、医療チームと相談をしながら、生活のさまざまな行為を誘発するスペースをつくった。45m×15mの大空間に“ いかにも病院” 的なイメージを避けた木製の家具、畳床のようなしつらえやベンチなどを置いた。雪の深い東北地方の冬の暮らしにも配慮している。
インテリアデザインは特定の空間のデザインであるが、一般のユーザーを対象にする家具のデザインも依頼された。たとえば食事に用いられる家具、スイスでの経験をふまえて、ヨーロッパのものとは異なった日本の暮らしにふさわしいダイニングテーブルづくりに挑戦した。日本の食事はヨーロッパの食事とくらべると料理は多種多様で、それに伴い食器の種類も多い。そこで食器から海苔や佃煮などの嗜好品まで収納する棚付きのダイニングテーブルを考えた。上部に棚をのせて部屋を間仕切ることもできる。 インテリアデザインは、日々の暮らしを快適に過ごすための環境づくりである。住まい、仕事をするオフィス、道中の駅舎や車内、買い物や食事をする店舗や娯楽施設、学校や市役所、そして老人ホームや病院など、個人的な生活から社会的な活動の場まで多様なスペースづくりに携わっている。人のスケールや動作、視覚や触覚といった感覚、広さの感覚、光や空気、温度など人が暮らして行くうえで必要な基本的なものから、空間にさまざまな機能や性格を組み込んで用途を変化させ、新しく魅力的な空間を創りだすことまで、柔軟な発想が求められている。
私の場合、インテリアデザインは人の直接触れる椅子にはじまり、次に生活空間を創り、建物の外へ、都市のなかにその生活空間をつないでいったといえる。私の仕事の原点はここにある。

『BRIDGE―風景をつくる橋』(大野美代子+エムアンドエムデザイン事務所/著、藤塚光政/写真、鹿島出版会、2009)より引用

PHOTO: FUJITSUKA Mitsumasa