イームズ夫妻のデザイン思想や暮らしぶりについて、後世に亘り「本物に触れて理解することができるようにする」というコンセプトで、ランドスケープ、建築、室内の備品、無形の資産など敷地含めた全体に対して、長期的視点に立った保存修復が行われている。
2011年にイームズ財団がプロジェクトを立上げ、2012年からGCI(ゲティ保存修復研究所)の協力を得て、2014年に第一段階が完了した。GCIはこのプロジェクトを「現代建築を対象とした20世紀の歴史遺産の保存に関する、包括的かつ長期的な国際プログラム」の一つに選定した。出版物、Webサイト等で情報発信を行い、モダニズム建築の保存活動の向上、促進を目指している。展覧会に向けて、2018年5月18日にイームズ財団のルシア・アトウッドさんと一緒にGCIを訪問し、遺跡・建造物部長のスーザン・マクドナルドさんにお話を伺った。
リビングルームのタイルの傷みが激しく、張り替えの必要が生じていたことが取り組みのきっかけとなった。オリジナルのタイルはアスベストを含んでいたため全て除去し、オリジナルと類似したビニル複合素材のタイルを特注し、張り替えた。
床下暖房ダクト*1 はオリジナルで、現在も使える状態であったが、ダクト内のライニング*2 に劣化がみられたため、暖房システムの全体を清掃した。
*1 空気を運ぶための管
*2 配管を通すために物質・物体を厚く覆う表面処理
イームズハウスのあるパシフィックパリセーズは年平均降水量が少ない地域だが、11月から2月にかけて降雨が集中する。屋根はフラットに設計されていたが、雨水による経年変化で構造全体が損傷していることが分かり、改修で建物裏側に向かって水勾配をつけ、雨樋も新設し、雨水を処理する設計に変更した。改修にあたり新設した部材は、取り外すとオリジナルの状態が完全に復元されるように設計している。
シールの劣化により一部の窓枠から湿気や雨水が入り込んでいたため、ペンキを剥がし、シールを交換した。鉄骨はオリジナルの色に忠実に塗装された。出入口のスライド式ガラス扉もスムーズに開閉出来るようになった。
リビングからパティオにつながる木質パネル壁は、夫妻の生活観を伝えるために傷みやシミを残すことが重要と考えられ、その上に紫外線防護を含む塗膜が施された。樹種については顕微鏡検査の結果、外部のユーカリと同種(オーストラリアタローウッド)であることが判明している。