イームズは、成型合板で椅子の製作に取り組んでいた時期に、傷痍兵の脚の添え木を開発した。イームズハウスにおいて、西斜面を背負う擁壁は、構造上「添え木」のような役割を果たし、部材を細くすることにより建築に軽快感を創出した。
西斜面地側の鉄骨柱をコンクリート擁壁と一体化させて建物長手方向の剛性を高めることで、屋根との取り合いは一辺3インチのアングルだけで構造的に成り立たせた。これにより屋根ぎりぎりの高さまで開口にすることができ、建築全体に軽快なイメージを創出している。
柱と梁を門型にして、各スパン等質な2層分の高さの内部空間をつくり、2階床は水平方向の自由な位置にハブマイヤ-トラス梁を取り付けて構築することができる、いわば3次元に拡張したユニバーサル空間を提案している。室内の固定間仕切りは最小とし、リビングと2階寝室の間の引戸を開放すると、空間は一体化する。
2層吹き抜けのリビングの奥にあるリスニングルームは、洞穴のように周りを囲んでアルコーブ状に設え、ゆったり寛げるスペースとして計画されている。造り付けソファの背面には、世界の民芸品や本が並べられていた。
イームズは、その道の専門家が研究と改良を重ねた結果として生まれた量産品に魅力を感じており、既製の工業製品を使って低価格の建築をつくるという、プレハブ化の基になる考え方を提案した。
ユーカリの木立が建物のボリューム感を抑え、ひっそりとした佇まいを見せている。外装はユーカリの木の影を映し多様に変化し、内部への直達日射を制御する。
南から北に吹く太平洋からの海風の通り道に合わせてリビング、スタジオ棟の出入り口を設け、人の動線をこれに重ね合わせている。
モジュール化された窓は、コマ撮り画像のように多様に風景を映しこみ、これに彩色されたパネルが組み込まれ、均質な表情と対極をなす「個性」を生み出している。
日射遮蔽とプライバシーの確保は当初から大きな課題であり、縦型ブラインドの他に、日本の障子を連想させるディテールの引戸を設置している。窓が開閉できたり、ガラスを使い分けてプライバシーを確保したり(透明、半透明、網入り)することで、浸透膜のように内外をつなぎ合わせつつ遮断する、という住まいに必要な環境制御機能がきめ細かく計画されている。
家具、什器、本や民芸品など、夫妻の感性のフィルターを通して集められたものは、個性を表出させるエレメントとして存在する。内外のプランターはよく手入れが施され、季節の花を咲かせ、明るく降り注ぐ陽射しとともに生きた感覚を演出する。夜はリビングの木製壁に反射して滲み出す温かい光が、住宅としての佇まいを際立たせる。