ご挨拶
ギャラリー エー クワッド 館長 白川裕信

「100+20人の東京 2019-2020 ~ South編~」は第108回目の企画展です。公募による参加者100名と、ギャラリーがお招きした20名の写真家、作家、アーチスト等が、レンズ付きフィルム「写ルンです」を使って「人・建築・都市」を記録したイベントです。
撮影期間は3月14日から22日の間で、社会状況を考えると大変微妙な時期でしたが、皆様の熱意に支えられ、記憶に残る作品が数多く生まれました。

本企画は木下直之先生のご指導の下、2006年に東京駅を対象として始まり、都内8か所を巡りました。今年がオリンピックイヤーであったことから、昨年と今年の2年連続で「東京」を取り上げ、企画の集大成という位置づけで実施しました。
主催が公益財団法人竹中育英会、 企画・共催 ギャラリーエークワッドです。

今回対象とした「東京South」には、都心部から千数百㎞を超えたところにある小笠原村も含まれ、これが東京都かと見紛うような美しい海が広がっています。昨年North編で見た西多摩郡の万緑映える風景も東京です。国の中枢機能が集積する世界最大級の都市東京、撮影時間帯や天候、視点の位置によって様々な相貌が現れ、実に饒舌で、魅力は尽きません。

我々を取り巻く環境には「スケール(尺度)」が内在しており、それは具体的な数字で表現されたり、概念として理解されたり、様々です。
こちら側の意識によって見えてくるものが異なるということを、コロナ禍の社会状況の中で実感しました。
新型コロナウイルスを説明する際に使われるナノメートルという肉眼では見えない長さ、ソーシャルディスタンスという公衆衛生上の距離は、これまでの日常では意識されていませんでした。また、ここ数カ月で広く普及したテレワークという言葉には、距離の概念が含まれていますが、物理的な離隔の長短に意味はありません。

「写ルンです」はズーム機能を持たないため、都市を見る際に、被写体と撮影者の距離の関係は極めて重要な意味を持っている、ということを感じました。これによってメッセージの内容が絞り込まれ、かつその強弱も左右されるように思います。
距離感は撮影者の視座を示す尺度であるという認識を新たにしました。

距離の他にも、都市に潜む歴史的文脈をトレースする、という意味での時間スケールがあり、都市の中心機能である人や物の移動には速度、時間、量のスケールが付帯します。100+20人の目が捉えたスケールは多様です。

皆様とともに2年をかけて切り取った東京、大小の変わりゆく姿、変わらない姿が巧みな撮影テクニックと相まって、実に多様に描かれ、記録されたと思います。
最後になりますが、本企画に対してお力添えをいただきました関係各位、ご参加いただいた皆様に深く感謝申し上げます。

ツールへのこだわり;デジタル全盛の時代に、敢えて、アナログの「写ルンです」を使うことについて

一過性による真剣勝負と時系列を大切にする。そして誰もが使える同じツールで撮影すること。

デジタルカメラとは異なり、その場での確認ができず撮り直しができないこと。

写した写真はその日の時間の流れを忠実に記録し時系列に並んでいること。

年齢、性別、プロ・アマなどを問わず、皆全く同じ性能のカメラを使うこと。