これは30組の木工家が、日本の森と再び向き合い木を生かす取り組みを始める「決意表明」としての企画展です。
家具作りに使うナラやサクラなどの広葉樹は、建築に使うスギやヒノキなどの針葉樹のように人が苗を育てるのではなく、種や切り株から自然に更新させるのが一般的です。かつて人々は身近な森の木で暮らしの道具を作り、薪で暖を取り、炭で煮炊きをしてきました。森は自ら再生し、人の営みとの間で良いバランスを保ってきました。
大量生産・大量消費の時代、森が再生するペースを大きく超えて人が樹を伐るようになりました。大手家具メーカーも個人の木工家も、国内に育つ大木を伐りつくし、外国の木を使うようになりました。
一方で人々は薪や炭を使わなくなり、身近な森は放置されました。里山は荒れ、老木が虫や菌に侵されて倒れたり、住み着いた獣が人に被害を及ぼすようになりました。また、都会で育ちすぎた木は人の都合で伐られ、産業廃棄物として捨てられるようになりました。
今、日本の森に再び向き合う必要があります。そこに育つのは、真っ直ぐで美しい樹ではありません。曲がっていたり、虫食いがあったり、痩せていたり太すぎたりする、癖のある樹たちです。しかし木工家は、それぞれの癖を読み、相応しい木を相応しい場所に用いる技術と経験を持っています。そして地域に暮らす木工家だからこそ、身近な森に向き合う責任を感じています。
今回、30組の木工家が第一歩として、一人一脚ずつ椅子を作りました。
15組は神戸市の六甲山の木を使いました。神戸市では交通や作業の支障になるために伐られた街路樹や間伐材を地域で生かす取り組みが始まっています。残り15組は埼玉県三富地域(川越市、所沢市、狭山市、ふじみ野市、三芳町にまたがる地域)の木を使いました。ここでは里山の落ち葉から堆肥を作る伝統農業を守るため、適度に樹を伐り、森を健康に保っています。
用いたのは、ヤマザクラ、コナラ、ハンノキ、ヤシャブシ、シデ、ホオノキ、アオハダ、ムクノキ、ヒノキ。一般的な家具づくりには用いない樹種も含まれます。
個性ある樹から生まれた個性ある一脚に腰掛け、それぞれの樹が育った森のことや、それぞれの木に向き合った木工家の決意を感じていただければと思います。