臼井 二美男
義肢装具士
公益財団法人 鉄道弘済会 義肢装具サポートセンター
公益財団法人 鉄道弘済会 義肢装具サポートセンターは1944年に当時の日本国有鉄道において労働災害により受傷した人たちのために設立され、義手・義足・装具*1の製作だけでなく国内の民間施設としては唯一のリハビリテーション医療を目的とした施設として運営されてきました。しかし、現在では広く一般の身体障がい者を対象に年間8,000件の義肢*2装具の製作を行っています。
1984年に私が義肢装具士として働くようになり36年が経過しました。当時はすでに欧米の製作技術や義肢材料が導入されてはいましたが、まだまだ木材、皮革、鉄材が多く使われていました。しかし、その頃から義肢の世界は飛躍的な進化が始まりました。アルミ合金、チタニウム合金、カーボンファイバー(炭素繊維)そして皮膚に触れる材料としてシリコーン素材が登場しました。現在では膝関節や足関節部品にマイクロコンピュータが内蔵され、歩行をより自然でエネルギー消費を少なくするアシストをしてくれるようになりました。今後も人体の一部として義肢装具のメカトロ化*3は進んでいくと思います。
1989年から独学でスポーツ義足製作を開始、1991年に義足ランナーのための陸上クラブ「スタートラインTokyo」を創設しました。最初はわずか4名だったメンバーも今では200名に増え、子どもから70歳代までが汗を流して走るクラブに成長しました。走ってみたい人なら誰でも歓迎がモットーです。メンバーからはパラ陸上、パラトライアスロン、パラ自転車などで多数のアスリートを生み出すことが出来ました。私自身も2000年シドニー大会から2016年リオ大会までの5大会に帯同メカニックとして参加することが出来ました。
「義肢に血が通うまで」という古い言葉があります。マイクロコンピュータが内蔵されてもそれは部品の一部に過ぎません。そして一番重要な人体との接合部分(ソケット)の製作や適正で快適なアライメント*4構築はまだまだ義肢装具士にしかつくり出せません。
単に義肢をつくるだけでなく、使う人それぞれの人生を思いやり、役立てる製品をつくり出すことだと思っています。
事故や病気で脚を失い悲しみのどん底にいる人、苦痛に耐えながらリハビリテーションを頑張っている人、そして義足生活を始めても思うように社会復帰できなかったり、生きる楽しみを見付けることができず、心に深い傷を抱えたままの人たちが存在します。
彼らの過去を変えることは出来ません。私に出来ることは義足づくりを通して、安心して立ち上がり歩くことをスタートラインに夢や希望を抱いて社会生活に挑戦していただくことと思っています。
コルセット、インソールなど、身体の機能の回復や機能低下の防止を目的として用いる器具を装具とよぶ。 治療のための治療用装具、日常生活の動作の向上のために用いる更生用装具に分けられる。
義手、義足をまとめて義肢と総称する。
メカトロ化は機械工学(メカニクス)と電子工学(エレクトロニクス)の合成語で、機械を電子回路によって制御することを意味する。
義足を構成するパーツの角度、方向や位置関係を調整して揃えること。