わが国には飛鳥、奈良時代からの素晴らしい木造建築が数多く現存しています。それらの建造物が長い時を経て現在まで伝わってきたのは偶然ではありません。それぞれの建築は何百年もの間、人々の手によって大切に守られてきたのです。とりわけ古代の建築が千年以上の月日を超えて生き永らえるためには、工匠たちがそれぞれの時代に部分的な修理を繰り返すだけでなく、数百年に一度の大修理においてその時代の最先端の知恵と技をふるって新たな命を吹き込むことが必要でした。
唐招提寺は天平時代に唐から仏教の戒律を伝えるために招かれた鑑真和上のために創建された古寺です。その伽藍の中心となる金堂は、8世紀後半の創建時の姿を残す代表的な建造物ですが、江戸(元禄)時代と明治時代に大規模な修理を受けています。近年、明治以後に進行した構造的な不具合が阪神大震災をきっかけに顕著になってきたことを受け、1998年から2009年にかけて新たに平成の大修理が行われました。綿密な調査によってこれまでの修理改造の履歴が詳しく解明され、当初の姿や後の各時代の工匠が取り組んだ修理改造の痕跡が明らかになりました。平成の大修理においてはその調査結果をふまえ、現代の技術者の知見やコンピュータも活用して、最新技術を応用した課題解決が図られました。
昨年「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」がユネスコ無形文化遺産に登録され、伝統木造建築に対する関心が高まっています。
本展覧会では、現代の保存修理工事において最新の科学技術を駆使して謎の解明に取り組む技術者の姿に注目しました。古代の匠が千年以上もつ建築をどのように造ったのか、また建築を未来に継承するために現代技術がどのように活かされたのか。1200余年前の天平時代に建てられた国宝・唐招提寺金堂の平成大修理を通して、建築技術・彩色復原・木材などに焦点を当て、古代の知恵と現代の技術を対比的に紹介します。
最後になりましたが、本展覧会の開催にご支援ご協力いただいた皆様に心から御礼を申し上げます。
2021年8月17日
公益財団法人 竹中大工道具館