当初は鮮やかに彩られていた?

創建当初の唐招提寺金堂には堂内外の広範囲に華麗な彩色文様が描かれていました。解体修理を機に作成された彩色復原画に、華やかな金堂荘厳の一部を見ることができます。当初の色料の多くが剥落し退色した状態から一体どのようにして彩色文様の復原がなされたのでしょう。

唐招提寺金堂内陣天井

写真:奈良県文化財保存事務所

古代の彩色文様
6世紀まで日本で使用されていた顔料の種類はベンガラ、朱、白土、緑土、黄土など数種でしたが、7~8世紀になると大陸から鉱物性、植物性、また人造品の鮮やかな顔料が伝えられました。創建時の唐招提寺金堂の荘厳には8世紀後半のバリエーション豊かな装飾文様を見ることができます。正面扉には宝相華(ほうそうげ)による二種の団花文(だんかもん)が描かれ、堂内の虹梁(こうりょう)、支輪(しりん)、天井には宝相華文や菩薩、飛天など仏教の世界が華やかに表現されていました。

唐招提寺金堂 彩色再現イメージ

写真:凸版印刷株式会社

VR作品「唐招提寺~金堂建築の巧み・御影堂の美~」(2004年)より

データ提供:独立行政法人情報処理推進機構(先導的アーカイブ映像制作支援整備事業より)
協   力:唐招提寺
制作・著作:凸版印刷株式会社
製作・著作:TBS

© 2004 Toppan Printing Co., Ltd. / TBS courtesy of Toshodaiji

写真:奈良県文化財保存事務所

丹念な文様調査
彩色文様の調査は部材一点一点の丁寧な目視観察により行われます。残存状況が良好な部材については、部材の上から薄紙をあてがい文様を筆で転写する「上げ写し」の手法により記録します。これを清書したものに残存色料の状況や部材表面の凸凹や傷など観察した情報を文字記入し、実物大の調査記録「白描図(はくびょうず)」を作成します。

写真:奈良県文化財保存事務所

科学的手法による色料分析
目視調査の結果をもとに、残存色料を同定するための材質分析が行われます。色料の測定には分光測色計(色を数値化して表す)、蛍光X線分析装置(色料に含まれる元素を検出する)などを用います。唐招提寺金堂では目視調査と科学的調査の結果を総合して13種類の色料が同定され、彩色復原が行われました。

写真:竹中大工道具館

1. 板膠(いたにかわ) 2. 三千本膠 3. 鉛白(えんぱく) 4. 白土 5. 藍  6. 黄土(おうど) 7. 藤黄(とうおう) 8. 鉛丹(えんたん) 9. ベンガラ  10. 水銀朱(すいぎんしゅ) 11. 緑青(ろくしょう) 12. 白緑青(びゃくろくしょう) 13. 筆

彩色の材料と道具
個人蔵
唐招提寺金堂の彩色復原を手掛けた大山明彦氏の道具と、復原画製作の材料。調査の結果、下記13種の色料が確認されました。
・白― 「白土」、「カルシウム系白色色料」
・黄― 「黄土」
・黒― 「墨」
・青― 「白土」+「黄土」+「藍」 ※代用群青と呼ばれる
・橙― 「鉛丹」
・鮮明な赤― 「水銀朱」
・赤― 「ベンガラ」
・濃赤― 「ベンガラ」+「墨」
・淡緑― 「岩白緑青」
・緑― 「岩緑青」
・濃緑― 「岩緑青」の上から「藍」+「藤黄」
・赤紫― 「白土」+「ベンガラ」+「藍」
・肌色― 「白土」+「ベンガラ」

写真:奈良県文化財保存事務所

唐招提寺金堂身舎天井裏板 白描図(はくびょうず)
2005年頃、唐招提寺蔵
唐招提寺金堂平成修理の彩色調査の際に制作されたもの。実物大の現状記録である白描図は彩色復原の根拠となる重要資料です。上げ写しの手法で写し取った図様を清書したものに、観察所見(図様の形態、色彩、彩色技法、残存状況など)が記録されています。残存する描線は実線で、推定される輪郭線は点線で描かれています。

写真:奈良県文化財保存事務所

唐招提寺金堂扉宝相華(ほうそうげ) 彩色復原図
2005年頃、唐招提寺蔵
扉の当初彩色文様の発見は、平成修理の特筆すべき成果の一つです。現在の扉板に描かれた花文は近世の修理時に描かれたもので、斜めから光をあてると近世の花文の下から当初と思われる風食痕が浮かび、かつて5間の扉板全体に宝相華による2 種の団花文が描かれていたことが明らかになりました。このように古代建築の外部に華やかな彩色文様が確認された事例は他にありません。

写真:奈良県文化財保存事務所

唐招提寺金堂身舎(もや)天井彩色復原模型
2005年頃、唐招提寺蔵
唐招提寺金堂や薬師寺東塔など古代建築の彩色には、暈繝(うんげん)彩色と呼ばれるグラデーション技法が用いられています。唐招提寺金堂の身舎天井は格間(ごうま)4間を一組とする暈繝の宝相華文(ほうそうげもん)で、青系統・緑系統があり、本模型は青系統を復原したものです。

写真:奈良県文化財保存事務所

唐招提寺金堂身舎支輪(しりん)彩色復原模型
2005年頃、唐招提寺蔵
平成修理の際、5点の支輪裏板と6点の支輪子を組み合わせた彩色復原模型が製作されました。今回展示された支輪裏板2点は、①菩薩立像を中心に下方を宝相華座、上方を湧き雲とする図様と、②宝相華の図様です。支輪子には花文(かもん)と条帯文(じょうたいもん)の2種があります。