天平の甍に挑む
仏教とともに、さまざまな建築技術が朝鮮半島から日本に伝えられました。瓦の作り方もその一つです。日本最初の瓦は596年頃、奈良県明日香村の飛鳥寺で作られました。飛鳥寺は718年に平城京内に移転して元興寺と名前を変えますが、このとき瓦も一緒に運ばれて、日本最初の瓦は今でも奈良市の元興寺に使われています。古代の瓦は1400年もの耐用年数を誇る超高性能建材なのです。
桶巻(おけまき)作りと一枚作り
平成修理の直前の時点で、唐招提寺金堂の屋根には平瓦29026枚、丸瓦10627本が葺かれていました。このうち平瓦3512枚、丸瓦15本が創建当初の奈良時代の瓦でした。丸瓦は残念ながら0.14%と残存率は低めでしたが、平瓦は12%が現役で使われ続けていたのです。
この奈良時代の平瓦には二つの種類がありました。一つは平たい台の上に粘土を置いて作ったものです。そしてもう一つは桶巻作りと呼ばれる作り方の瓦で、これは唐招提寺創建以前の、どこかの建物で使われた瓦を再利用したものでした。
唐招提寺創建当初の瓦
8世紀、唐招提寺蔵
唐招提寺創建当初の丸瓦と平瓦。瓦を作った時に型の表面にかぶせていた布の痕が表面に残っています。
痕跡を頼りに
瓦そのものが残っていても、それを作った道具は残っていません。そのため瓦を観察し、あるいは古い作り方を残す沖縄や韓国の例を参考にしながら、現代の職人が奈良時代の瓦の作り方を再現しました。桶巻きと呼ばれる作り方で、桶の骨の大きさ、骨どうしを連結する方法、桶にかぶせる布の網目、粘土の成形方法などはいずれも奈良時代の瓦に残る痕跡をもとに再現しています。
古代の平瓦製作工程
1. 桶を組み立てる
2. 桶に布をかぶせる
3. 布の上から粘土板を巻く
4. 粘土を叩き締める
5. 桶を取り出す
6. 粘土の円筒を四分割する
7. 瓦の縁を整える
8. 乾燥させて焼く
再現された古代の瓦
2017年、山本瓦工業製作、竹中大工道具館蔵
現代の職人が再現した古代の丸瓦と平瓦。このうち平瓦は桶巻作りで製作しました。桶に被せる布なども含め、奈良時代に存在した素材や技術だけで作られています。